女教皇ヨハンナ ドナ・W・クロス 

<あらすじ>
西暦814年、カール大帝がこの世を去ったその日、フランク王国内の小さな村に一人の少女が生を受けた。その名はヨハンナ。のちに歴史上唯一の女教皇となる女性の誕生だった。

地元の図書館でたまたま見つけてずっと気になってた本がありました。それが『女教皇ヨハンナ』。ローマ教皇に選ばれるのは男性のみであり、女教皇ヨハンナはあくまで伝説上の存在のようです。興味深い題材でいつか読んでみたいと思っていたのですが、いつか読むかもしれない本として頭の中にメモしておくだけでずっと先延ばしになっていました。それがついに先週読んでみようと思い図書館で借りたのですが、これが本当に面白くて図書館で女教皇ヨハンナに出会えた事に感謝です。ありがとう神様と地元の図書館。


女教皇ヨハンナという女性は伝説上の人物であり実在しないというのが一般の説のようですが、この作品の作者はそれらの説に反論し彼女が実在する人物として扱い今作をファンタジーなどではなく歴史小説として書いています。
上下二巻の作品で、上巻で主人公ヨハンナの生い立ちと成長が描かれ、下巻で彼女が歴史の表舞台に立ちついには教皇となるというオーソドックスな構成の歴史小説となっています。

最初、キリスト教を扱った作品なんだからもっとお堅い物語なのかと思っていたら分かりやすくエンタメ小説してて驚きました。
ヨハンナの成長物語、騎士ゲロルトとのラブロマンス、好敵手アナスタシウスとの教皇の座を巡る暗闘なんかはとてもエンターテイメントしていて、訳も良いのかドンドン読み進む事ができます。
それでいて当時の風習、生きていた人々の考え方、風俗、キリスト教社会、を知る事ができる点はこの作品の歴史小説としての美点だと思います。(自分がヨハンナの生きた時代と世界に不勉強だから正否は判断できないし、概説書などではなくあくまで小説ではあるので全部鵜呑みにする事はできないが)
ただ、専門用語や歴史上の人物について解説する事なくドンドン話を進ませていく事が多いので、いちいち分からない事があったらスマホで調べないといけない事が多々ある点は割と歴史小説として大きな欠点かもしれません。もしかしたら欧米の人々にとっては最低限知ってる事なんだったりするんだろうか。フランク王国の歴史なんて日本人からしたらドマイナーだからなぁ。


小さな村のカトリックの聖職者である父と元は異教徒であった母との間で生まれたヨハンナ。幼き彼女は長兄マティアスと最初の師アスクレピオスにより勉学の道に生きたいと願うようになる。だが、当時の西ヨーロッパはそれを許す時代ではなかった。厳格で因習に囚われた父、ヨハンナに優しいがカトリックの教えを学ぶ事を快く思わない母、そして女性に勉学を許す事のない社会がヨハンナを苦しめ抑圧します。
しかし、どんなに辛い壁にぶち当たろうともヨハンナは強い信念を持って突き進んでいこうとする。ついには女である事を捨てヨハンナは名を騙り男として生きていく事を選びます。
男となったヨハンナはフルダという修道院で学識と誠実さにより人々から認められる存在になっていきました。
ここまでが上巻のだいたいの要約です。

とにかくヨハンナは虐められます。陰鬱なストーリーにヨハンナだけでなく読者まで苦しめられ読むのが辛くなる時があるほど。それでも自体が何度も急変するストーリーと諦めずに立ち向かうとする健気なヨハンナの姿に読者は興奮し読むのを止められません。
単純に物語が面白く主人公であるヨハンナが魅力的なんですよね。
ただヨハンナは少々現代的な考え方を持ちすぎじゃね?って思う時があります。先進的な思考の持ち主であるからこそハンデをものともせず突き進む事ができた、あるいは政治や聖職者の場では除外された女性であったから当時の因習に囚われなかったという事を作者は言いたかったのかもしれないが。先進的な考え方を持っていたヨハンナでも、所詮はこの時代の人間であったと思えるようなところを少しでも見せていたらヨハンナに対する違和感は無くなっていたかもしれません。


下巻ではついにヨハンナが歴史の表舞台に立つ事となります。フルダで女性である事がバレそうになったヨハンナは修道院を脱出、辿り着いた先はローマです。
このフルダからローマへの転進は割と唐突で無理やりな展開だったので、もう少し丁寧に書いて欲しかったなあ。後、フルダでの修道士生活をもう少し読んでいたかったというのもあります。二番目の師であるベンヤミンとヨハンナの医術によって民衆を救う話が面白かったので。
まあ、フルダで尺を使ってたら上下巻で終わらないし、なっかなかヨハンナが教皇にならないぞという事になってしまうからねぇ。

下巻ではカトリックの本地であるローマに舞台を移した事により、ヨハンナの周りの話だけでなく、政治的な話や国際情勢に紙面が割かれる量が増え歴史上の人物も多く登場し、より歴史小説らしい物語となっていきます。
ローマでヨハンナは時の教皇と出会います。フルダで学んだ医術により教皇セルギウスを治癒しヨハンナは教皇の信頼を得る。しかし、その事によりヨハンナは教皇庁で繰り広げられる陰謀やフランク王国とローマの対立に巻き込まれる事に。
ヨハンナに降り注ぐ災難が上巻に比べスケールの大きいものに変わっています。機知で自分だけでなくローマまで救ったヨハンナは輿望を集めついにはローマで要職まで得る事となります。
知恵と勇気で困難に立ち向かうヨハンナの活躍は胸躍りますが、それ以上に弱い人々のため心を尽くそうとする優しい彼女の姿に心打たれます。
ヨハンナの活躍だけでなく、男として生き地位や名誉を得る毎に女としてゲロルトへの愛に悩むヨハンナの葛藤も下巻の見所です。
愛に生きたい気持ちは分かるけど、もう一度女に戻ろうとするのはヤバいぞヤバいぞ破滅への道だぞ、となってハラハラしますねぇ。この作品を読む前に歴史の結末を知ってるだけにね…。

ヨハンナがローマに来て幾数年、教皇が二代世を去り、人々の信望を得ていたヨハンナはついに教皇となる…。


※ここから続きはネタバレがあります。
幸運に恵まれたおかげもあってかヨハンナはついに教皇となる。後の運命を思うと幸運では無かったかもしれないが…。
ヨハンナは貧困に喘ぐ民衆や弱き人々を救済するための政策を次々と打ちたてていきます。しかし伝統を重んじるカトリック教会において彼女の政策は批判され、協力者であるゲロルト以外にはなかなか理解されない。
それでも彼女は自分の信念を貫きまい進していくわけですが…。

そんな中、ローマで大雨が降り、とある地区が氾濫するという事態に。ヨハンナ自ら指揮をとり、ゲロルトとともに人々の救出に向かうが、アクシデントにより二人は大雨が浸水する建物の中で残されてしまう。極限状態でヨハンナはゲロルトへの愛が抑えられる事ができず、ついに二人は結ばれる。
本来ならハッピーエンドと言いたいところだけど、状況が状況なだけに喜ぶわけにはいかないわけなのが辛いわけです。
ヨハンナにとって喜ばしい事だった二人の情事が彼女の破滅のきっかけを作ります。なんと彼女はあの一事で妊娠してしまったのです。

このままではヨハンナは殺されると考えゲロルトは二人で逃亡する事を計画する。しかしヨハンナは民を見捨てる事ができない、もう少しだけと引き延ばしてしまう。
すぐに決断しなかった事が二人の失敗でした。
教皇の座を狙うアナスタシウスの策略によりゲロルトが殺害されてしまう。愛する人を失ったショックのあまり男である事を忘れ女の言葉でゲロルトにヨハンナは語りかける。その時の衝撃と悲しみが引き金となったのかヨハンナは民衆の前で出産してしまった。
ヨハンナもゲロルトの後をすぐ追うように天に召されました。
悲しい幕切れです。
これだけで終わってしまうとただの悲劇です。だが、ヨハンナと読者に対して作者はちゃんと救いを用意してくれていました。

ヨハンナの死から数十年。結局アナスタシウスは教皇にはなる事ができなかった。代わりに彼は教皇庁の司書となり歴代教皇の伝記集『リベル・ポンティフィカリス』を書く事となった。その時にアナスタシウスは恨みに思っていた女教皇ヨハンナの存在を書く事なく彼女の存在を歴史から消してしまう。
ああ、だからヨハンナが歴史から消された存在になるのかと感心。
だが、女教皇ヨハンナの存在を忘れていない人間がいた。
パリの司教館で大司教は『リベル・ポンティフィカリス』の写本を一人で行う。その大司教はかつてヨハンナが救った家族の娘であり、ヨハンナと同じく女である事を捨て男と偽り聖職者となった者だった。
ヨハンナの恩返しのため彼女は『リベル・ポンティフィカリス』に女教皇ヨハンナの事績を書き記す。
こうして、公式の記録に消されたヨハンナは伝説として語られる事となる…。

壮大な歴史物語にふさわしいフィナーレでした。
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テーマ : 海外小説・翻訳本
ジャンル : 小説・文学

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