複数の時計 アガサ・クリスティ

複数の時計 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)複数の時計 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
(2003/11/11)
アガサ・クリスティー

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<あらすじ>
タイピストのシェイラは、秘書・タイプ引受所から派遣され、クレスント通り19号の家に向かった。無数の時計が置いてある奇妙な部屋で依頼人を待っていると、シェイラは恐ろしいものを発見した。その部屋に男性の惨殺体が横たわっていたのだ…。通報を受けた警察は調査を開始したが、死体の身元が一向につかめない。さらに、死体を囲んでいた時計は、その家の住人から家の物では無いことを知らされる…。


ポアロシリーズ29作目の作品。クリスティの全盛期を過ぎて晩年に近い時期に書かれた作品のためか、マイナーで、しかも評判のあまり良くない作品でもあります。クリスティの作品のなかでワーストに挙げられることもあるほどの評判の良くない作品。はたして、そのデキはいかほどでしょうか。

ポアロの相棒で知られるヘイスティングズ、が彼が活躍するのは専ら前半の作品で、ときどきポアロが彼のことを懐かしむぐらいで後半の作品に彼の出番はありません(例外は最終作の『カーテン』)
そのポアロのモナミの代わりをこの作品で勤めるのが、この作品の主人公とも言っていいミステリアスな若き青年コリン・ラム君です。

諜報部員であるコリンが任務のためクレスント通りを歩いていると死体を見て恐慌状態に陥ったシェイラと出会います。そこから事件に巻き込まれたコリンは知り合いであるハードキャスル警部とともに事件の調査に乗り出すことになりました。
コリンはさすが諜報部員だけあって冷静沈着で、ヘイスティングズみたいにアホなことはしません(何かとヘイスティングズと比較してしまうな)そんな彼でも、この奇妙な事件には苦戦します。どうしても身元がわからない被害者に、謎の「複数の時計」。こんな不思議な事件は初めてだとハードキャスル警部もお手上げ。そこで、コリンは知り合いに高名な探偵がいたことを思い出します。その探偵こそごぞんじエルキュール・ポアロ!椅子に座ってるだけで事件が解決できるというポアロの大言に、コリンはなら本当にできるかやってもらおうじゃないかと期待半分、面白半分でポアロの事務所へ向かいます。コリンの話に興味を持ったポアロは事件解決のために働くことに…といってもポアロはほとんど動きません。椅子に座ったまま事件を解決するのを実践するためか、ポアロはコリンを情報集めのために働かせます。自分はほとんど椅子に座ってるだけで。コリンが顔を出せば世間への愚痴を言ったり趣味である自分の推理小説論を語るだけで、アドバイスはほんのたまにです。この部分だけ抜き出すと延々と説教と趣味の話を若者に聞かせるボケかけた爺さんみたいだw

この作品の大半はコリン・ラムの視点で物語が進みます。これがこの作品が不評を買ってる原因の一つかもしれません。え--い、コリンはいいっ!ポアロを映せっ!ポアロの探偵振りをっ!(AA略
みたいな感じで。

しかし個人的にはこの作品はポアロがわき役で正解だったと思います。この作品は地味な聞き取り調査が続き、後半に物語が動きを見せるまで地味な進展です。他のクリスティ作品ですと『もの言えぬ証人』とか『白昼の悪魔』みたいな中盤が少し退屈な作品でしょうか。(逆に物語の進行が派手なのは『エッジウェア卿の死』とか『ナイルに死す』とか)ポアロが一人一人関係者に話を聞いて、それらの情報をもとに事件を解決を導くといったいつものストーリーラインと違って、コリンが関係者から聞き取り調査をした後、事件解決の目処が立たずポアロのもとへ向かうという構成なので、いつものストーリーにポアロのもとへ向かいやっとポアロが登場するという山場が追加されているので話に起伏があります。よって地味で中盤が退屈な作品よりも退屈せずに読むことができました。

肝心な物語事態も面白いです。クレスント通りの奇妙な住人達に、謎の暗号、身元不明な死体、そして謎の「複数の時計」、ミステリーの道具として読者をひきつけるためのものがこれでもっかつうほど揃っていて興味をひかれます。また、コリンとシェイラのちょっとしたロマンスも物語に華を添えています。あと引退しかけの爺さんポアロと若者コリンの会話も面白く、ポアロのつまりクリスティの推理小説論は興味深いです。地味目な作品でありながら最後まで面白さが持続してよむことができた作品です。個人的にもう少し評価されてもいいかな…と思います。決して駄作ではありませんでした。


※ここから続きはネタバレがあります

たとえ途中の物語が面白くてもラストが駄目だとそれまで積み上げてきたものが無駄になってしまうことは多々ある。終わり良ければ全て良しの反対で終わり悪ければ全て悪しなんて言ってた人もいる。とくに推理小説はその傾向がある。どんなに物語が魅力的でもトリックが優れてなければ、犯人に意外性が無ければ、論理的に謎を解き明かさなければ、推理小説としては駄作なのだと言う人もいるであろう。自分もそこまで偏った読者ではないけどやはり推理小説にはそれらの部分を期待してしまう。
はたして『複数の時計』は読者を納得させる解明だったのか。


多分、この部分が納得できない人が多数いたから、多くの人がこの作品に駄作の烙印を押したんだろうなー。
この作品のタイトルにもなってる「複数の時計」。この時計の謎がこの作品のキモであり一番の謎でしょう。この謎が気になったからみんな最後まで読んだんでしょうけど、なのにたどり着いたものがこれかよ。

犯人が複数の時計を死体のある部屋に置いた動機
1、警察の目をシェイラに向かせるため
2、事件を複雑に見せて警察の捜査を撹乱するため
そして、犯人が時計を置いた一番の強い動機は



3、自分が好きな推理小説家の作品を模倣して犯行を行ったため、意味もなく時計を置いちゃったテヘッ♪

・・・これじゃあ読者は納得できないようクリスティ…しかもヒントほとんど無いですから。確かに犯人がその推理小説家を尊敬してるみたいなことは言及されていたけど、その時計を複数置く推理小説の話なんて解決になるまで一切出てきてないよ!せめて、こんな小説があったね…みたいな会話があればな…

ただクリスティがこの作品でやりたかったのは動機2だと思う。ポアロはこの作品でこんなことを言っている。以下作中より抜粋

「いわば、チェスタートン説の逆ですよ。”この葉なら、どこへ隠すか?森の中へ。小石なら、どこへ隠すか?浜辺へ”これは誇張であり、空想的であり、メロドラマ的でありすよ!わたしがチェスタートンをまねて”中年女性なら、その色褪せた美をどこへ隠すか?”と自問した場合、”ほかの色褪せた中年の顔のなかへ”とは答えません。絶対にね。中年女性はそれをお化粧の下に、ルージュやマスカラの下に、身にまとったすてきな毛皮や、首にまきつけたり、耳に下げたりしている、宝石類で隠しますよ。
(中略)
なぜなれば、人はその毛皮や宝石、髪形や衣装だけを眼にとめ、その女性そのものの実態をぜんぜん観察しようとしないからですよ!だから、わたしはこう呟くーコリン君にも言いましたがねーこの殺人事件は、数多くの奇怪な飾りものでひとの眼をそらそうとしているところを見ると、実際はすこぶる単純な事件に相違ない、と。そうだったろう?」



これぞクリスティ流の極致。レッドへリングやミスリードこそクリスティのミステリーの真髄だと思います。

この作品の犯人はなかなか意外性のある犯人です。読者をクレセント通りの住人たちに目を向けさせておいて、実はタイプ引受所の所長マーティンデールが犯人だった!これも上記の実践ですね。(まあ、割かしよくあるパターンなんで気づいた人もいるでしょうけど)

時計の動機がもっと納得できるものだったらこの作品の評価も変わっていたんだろうなー。そう思うと惜しい作品だというのが、自分のこの作品の最終評価です。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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