エッジウェア卿の死 アガサ・クリスティ

エッジウェア卿の死 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)エッジウェア卿の死 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
(2004/07/15)
アガサ・クリスティー

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<あらすじ>
ある夜、ポアロとヘイスティングズは女芸人カーロッタ・アダムスの有名人の模写(ものまね芸)を楽しんでいた。その彼女に真似をされた大女優ジェーン・ウィルキンスンからポアロは依頼を受ける。それは、夫であるエッジウェア卿との離婚を調停するというもの。承諾したポアロはさっそくエッジウェア卿を訪ねるのだが、不思議なことに卿に離婚は異存がなく、すでに手紙で同意の意思を伝えているとのこと。納得いかないながらもこれで仕事は終わったと思っていたポアロであったが、その翌朝にエッジウェア卿邸で事件が。惨殺されたエッジウェア卿の死体が発見されたのだ。ポアロは事件の調査に乗り出すが、再び殺人事件が起こる…。


ポアロシリーズ七作目の作品。ポアロの失敗談としてヘイスティングズの言葉から物語は語られます。この作品を読む前に『ブラック・コーヒー(小説版)』(クリスティが書いた戯曲をチャールズ・オズボーンが小説に書き直した作品)を読んでポアロがこんなことを言っていました。「エッジウェア卿の事件では犯人にまんまとだまされるとこでした。(妙訳)」そのポアロが犯人にまんまとやられそうになった話とはどんな話だろうと、興味を持ったのが、この作品を手に取ったきっかけです。

失敗談と言われるだけあってポアロは苦戦します。それは『邪悪の家』と同じですが、作品では登場人物たちのドラマが見えてこないということはありません。最初の被害者であるエッジウェア卿は、内外から評判の悪い男で、殺されるに足る理由はたくさんあります。そのエッジウェア卿、サディストと評判の人物で、クリスティにしては珍しく直接的に変態であると描写されています。エッジウェア卿だけでなく出てくるやつが派手な登場人物ばっか。サディスト男爵エッジウェア卿をはじめ、超絶自己中女優ジェーン、ものまね女芸人カーロッタ、カーロッタの友人でとにかくよくしゃべるジェニー、どこか胡散臭いとこのあるイケメン俳優ブライアン・マーチン、エッジウェア卿の前妻との娘で薄幸の美少女ジェラルディン・マーシュ、エッジウェア卿の甥で爵位を継ぐこととなった遊び人のロナルド・マーシュと個性いっぱいの人物がずらり。ただし人物描写は派手だけど大雑把で後の作品のような深みはありませんけど。次々とそんな個性があって曲者ぞろいの人物が登場し、さらに次々と事件が起きて新事実がポンポン出てくるんでほんと面白いです。

ミステリとしては他の有名作品に劣るかもしれませんが読み物として非常に面白い作品です。


※ここから続きはネタバレがあります
最初、容疑者としてエッジウェア卿の妻ジェーンが挙げられます。それは、殺人のあった夜ジェーンが帰ってきて、
「夫を殺してやる」と言っていたと邸にいた人間が証言のためです。ジャップ警部はその証言を信じ、ジェーンが犯人であると決めつけますが、ポアロは「自分の夫を殺すときに夫を殺すぞと高らかに宣言する殺人犯がいるでしょうか。」と半信半疑。案の定、ジェーンにはある邸のパーティに出席したためアリバイがありました。じゃあ、昨夜見た女は誰だったのか?ポアロは女芸人カーロッタがジェーンのものまねをしていたことを思い出します。夜に来た女はカーロッタに違いないと確信したポアロは、きっと真犯人がジェーンに容疑を着せるために彼女を利用したのだと推理します。同時にポアロは気づきます、それが本当ならカーロッタが危ない、すぐに保護しなくては!急いで駆け付けるポアロであったが、時はすでに遅く、カーロッタは帰らぬ人に…。


この作品は、ある一つのトリックに頼っているので、それがわかってしまうとたちまち犯人までわかってしまいます。
自分は偶然そのトリックに気づいたために見事犯人を当てることができました。そんな偶然でわかってしまうほどの単純なトリックです。が、それゆえにインパクトがあります。

事実はポアロの推理と全て逆でした。エッジウェア卿の邸に来ていた女はなんと本当にジェーン本人だったのです。実は、パーティーに出席していたのがカーロッタなのでした。この事実に気づくまでポアロは犯人ジェーンの思惑通りに操られていました。まさに、ポアロ危機一髪、彼が失敗談として黒歴史に葬り去りたかった気持ちもわかります(もっともポアロは道端にいる一般人の偶然の一言で真実に気づいたことが恥なようですが、しょっちゅうヘイスティングズの偶然のヒントに助けられてるくせに(笑))
この単純な事実に気づかなかったことは、犯人によるミスリードのための工作もありますが、それ以上に心理の面が大きかったと思います。ポアロはプロファイリングを得意とする探偵であると自負しています。そのため、あからさまなぐらい夫を殺すと言って、しかも他の人間の目があるのに姿を隠すことなく堂々と人を殺しに行く人間が狂人でもないかぎり普通はいないと考えてしまいました。現在のように簡単に人を殺してしまうような時代ではありません。昔ジェーンと恋人であったブライアン・マーチンは彼女のことを「自分が絶対正義であると信じて疑わない人間、彼女が人を殺そうとする場合、堂々と殺すであろう」と言っていましたが、まさにそのとおりでした。ジェーン・ウィルキンスンはポアロの思考の枠を超える化け物だったのです。

真実が明るみに出たあと、ジェーンは逮捕されます。そして、彼女には処刑の判決が下されます。その後、ポアロとヘイスティングズのもとに彼女から手紙が送られてきます。その内容は要約すると「もうちょっとでポアロさんを騙しとおせると思ったんだけどなー、でも凄いでしょ。刑務所の中で友達に自慢しています。みんなもわたしのことを誉めてくれます♪神父さんは罪を悔い改めよみたいなこと言ってきますけど、わたしは全然後悔していませんよー。わたしが死んじゃったら私のビューティフルな死体を蝋人形館で飾ってほしいな~(*^▽^*)」
全然、この女反省していません。

この本を読み終えた後、最初の章に戻ってみますと、ヘイスティングズがこんなことを言っています。「ポアロの失敗談を紹介するとともに一人の魅力的な女性のことを話したい」
こんなしょっぱなのところに伏線が張ってあったのかよ!とクリスティに脱帽!
確かにヘイスティングズの言うとおり魅力的な女性であったよ。ぶっ飛んだ方向に魅力的な女性ジェーン・ウィルキンスンの印象がとんでもなく強い作品でした。クリスティ作品をたくさん読んできましたが一番印象に残る犯人は間違いなく彼女です。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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