象は忘れない アガサ・クリスティ

象は忘れない象は忘れない
(2012/08/01)
アガサ ・クリスティー、中村 能三 他

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<あらすじ>
推理作家ミセス・オリヴァは文学者昼食会でとある女性から奇妙な事を頼まれる。その女性は、オリヴァが名付け親になったシリアという娘の両親が十数年前に起こした心中事件の真相を知りたいというのだ。
オリヴァと、彼女から相談を受けたポアロは過去を知る可能性のある人々を訪れて、十数年前に起きた事件の調査を始める。


今作はポアロもので最終作から2番目に位置する作品です。ただし、最終作『カーテン』は、発表されるより約30年前に書かれた作品であるため、『象は忘れない』が、クリスティが最後に手掛けたポアロ長編作品となります。

初期のポアロ作品と違い、相棒役となるのは愛すべきお馬鹿ヘイスティングズ大佐ではなく、後期のポアロ作品での準レギュラー推理作家オリヴァ夫人です。外国人探偵を主役とした推理小説を書いているという設定からもわかるとおりクリスティ自身がモデルになっていると言われているキャラクターです。何で外国人の探偵にしたんだろとか自身の小説について愚痴を言う事が多く、クリスティがポアロをどう思っていたのか気になりますw
同じく警察役も初期のジャップ警部ではなく、後期の準レギュラースペンス警部が務める事となっております。でも、今回のスペンス警部は脇役です。
ポアロとスペンス警部が一緒に事件を捜査した事件は『マギンティ夫人は死んだ』『ハロウィーン・パーティ』といった二つともいわゆる「回想殺人」というジャンルの作品です。という事は今回も…。

『象は忘れない』…このタイトルはイギリスのことわざからとったタイトルです。象は、針を鼻に刺した事でさえ忘れず、刺した人間に水をかけるぐらい記憶力が良いということわざなのだそうです。
象のように記憶力の良い人間を探して、十数年前の事件を解き明かそうというのが今回のあらすじ、つまり「回想殺人」ってやつです。
十数年前の事件であるためか、事件に関わりのある人がお婆ちゃんが多い事もあってか、おぼろげな記憶力を使って証言するため、あやふやでいまいち掴みどころがありません。
しかも、事件の手掛かりになる証言を聞き出すため、とりとめのない昔話をしたりして、なかなか聞き出したい事にたどりつかない事がしょっちゅうで、何人もそのやりとりを繰り返すので正直中盤はかなり退屈します。事件は過去に起きた事件だけで展開にほとんど起伏が無いし。
それだけでなくある程度証言が集まり、捜査が軌道に乗り出すと、ほとんど真相が読めるんですよね。
物語は退屈、真相は読めてしまうと良いところの無い作品かのように思える。が、何故か最後まで読むとそれなりの充足感があるというクリスティマジック。
遠き昔の思い出話に心を動かす人々にノスタルジーを感じ、切ない真相にぐっとなり、そして最後は爽やかなハッピーエンド。うんうん、退屈だと思う事も多々あったけど良かった、良かった。
この作品がクリスティが最後に書いたポアロである事に不思議な感慨深さを感じます。


※ここから続きはネタバレがあります。

後半になるとシリアの母親に双子の姉がいた事、その姉がシリアの父親と昔恋人であった事、しかし姉は精神異常者であったためシリアの父親と別れた事、心中事件の数日前に事故死したといった事が判明する。
で、ポアロが最初っから引っかかっていた4つのかつら。…もうここまで来たらだいたいの人がわかると思います。

事故死したのは姉ではなく妹、そうシリアの母親である。その後姉はかつらを使い双子の妹に成り変っていたのだ。それは昔の恋人は取り戻すため。しかし、シリアの父親に真相がばれてしまい、そして姉はシリアの父親を殺し、自分も自殺する…これが自分の予想でした。こりゃあ当たったかなと思ってたんですが、半分外れていました。

姉が妹を殺したのは本当だったが、真実は瀕死の妹とその夫シリアの父親が姉を犯罪者にしないために仕組んだトリックだったのだ。姉は妹の事を恨んでいたが妹は姉を愛していた。妹は自分の夫に姉を犯罪者にしないで欲しいと死の間際に頼む。夫は愛する人との約束を果たすため、昔の恋人の名誉を守るため、姉と妹を入れ替える事にしたのだ。これで姉は犯罪者として捕まる事はない。しかし、精神異常者である彼女はまた人の命を殺めるかもしれない。しかし、警察に通報すれば愛する人との約束も愛する人との名誉も守れない。そこで、シリアの父親は愛する人たちの約束と名誉を守るため心中を図ったのだ。

双子の姉と妹が入れ替わっていたのは予想通りだったんですが、シリアの両親たちの行動には驚きでした。
よく考えたらシリアは自分が結婚するため、未来を前向きに生きていくために真実を知りたかったわけです。自分の予想したのが真実だったら、凄惨すぎてちょっとシリアには辛すぎるよなあ。
クリスティが用意した真実、両親のやった事は許される事ではないのかもしれない。しかし、それはお金のためでも自分の犯行を隠すためでもない、決して利己的な動機ではなく、自分たちの愛する人のための行動だった。
真実を知ったシリアとその婚約者は、事件のあった跡地を後にし、未来に進む事になります。その二人が去るのを見届け、ポアロとオリヴァ夫人は悲劇も事件も無い日常に戻っていく。これ以上ない爽やかな幕切れです。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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